九州の大雨~四国~東海~関東へ
梅雨前線に伴う雨で、西日本、特に九州では、毎年のように災害が起きています。しかし、ぜーんぶひとくくりで、「梅雨前線が停滞することによる集中豪雨のパターン」というわけではありません!今日は、その辺のことを見て行きましょう。
<昨日の夜から今日の日中にかけての雨の降り方の変化>
ちょっと図がたくさんになってしまいますが、昨日の夜21時から今朝9時までの3時間毎、その後、10時から14時までの1時間毎の雨の降り方を見てみます。
?21時?0時3時 ?6時9時 ?10時11時 ?12時?13時14時
はじめは九州北部に広くべたっと広がっている降水域ですが、未明から明け方頃にかけて、雨域の南縁に特に強いエコーが帯状に分布するようになってきています。実は、21時の時点では、梅雨前線が九州の南海上に停滞する形でしたが、次第に低気圧の前面で温暖前線の性質を持ちながら九州地方を北上してきたのです。前線の位置、種類が変わって、雨の降り方も変わってきているというわけです。下の図の、左側が昨日の21時、右側が今朝9時の速報天気図です。
九州北部は、はじめは温暖前線の前面の雨でしたが、朝には暖域に入り、寒冷前線の前面の暖湿気流入に伴う雨になったようです。トータルで考えると、九州北部では、昨日の夜から、前線の北側で降った雨と前線が北上した後に寒冷前線前面に沿って降った強雨を合わせて、結構な長い時間、雨が降っていたということです。土砂災害警戒情報まで出ました。予想図ではありますが、850hPaの相当温位と風の変化で前線の動きを見てみます。緑色の太線と、着色部分は、相当温位345K以上の領域です。
あれ。途中で色が変わっちゃいましたが、紫色(赤色も)が850hPaの温暖前線です。はじめは九州北部は温暖前線の北側に位置していますが、次第に暖域に入り、345K以上の暖湿気が、強い西南西~南西風で吹きこんでいる所にあたるようになります。この部分で前線の対流活動が活発であると分かります。ただ、12時以降は低気圧性の循環の後面から南側を回りこむように、相対的に相当温位の低い空気が流れ込みはじめています。低気圧が閉塞しながら、寒冷前線も次第に南下し、それに合わせて雨域も南下しつつ、次第に弱まってきた感じです。
<「停滞」しなかったから、こうなった。逆に言うと、短時間強雨にも注意しないと…か>
2012年7月に、九州(熊本)でひどい集中豪雨があり、河川が氾濫して大変な災害になりました。あの時は、ずーっと前線の南側にあって、前線帯の南縁の大気下層に、南海上から暖湿気が流れ込み続けたため、長時間に渡り、同じ位置で強い雨が降り、集中豪雨となりました。でも、今回は違います。九州北部では、先ほどから見てきた通り、性質が違う雨で、長い間降り続いたため、土砂災害警戒情報まで出ましたが、前線の通過とともに、強い雨域がちゃんと移動していったため、これ以上の集中豪雨にはなりませんでした。
12時間積算降水量を比較(左は、今日14時までの12時間積算降水量。右は、2012年7月12日朝6時までの12時間積算降水量)
上の2枚の図を比較してみると、同じ12時間(一番強い降水が観測されている時間を中心に)の降水量ですが、左側は九州北部の広い範囲で、150~200ミリ以上の降水量になっています。それに対して、右側は熊本付近に集中して、250ミリ以上の降水量になっていることが分かります。どれだけ恐ろしいことになったことか。
でも、大気下層に流れ込む非常に暖かく湿った空気は同等なのでしょうか(相当温位では同じくらいです)。やはり、今回も発達したエコーは短い時間に強い雨をもたらしました。そのために、道路が冠水し、アンダーパスも通行できない、側溝があふれるなど、所々で被害はありました。この後の予想を考えると、今後は長時間停滞する雨というより、1~2時間という短時間で強い雨が降ることで起こる災害に注意しないといけないということでしょうか。
<今夜から明日にかけて>
上の3枚の図は、850hPaの相当温位・風の予想と、3時間積算降水量の予想です(MSM)。左上が今夜21時、右上が明日3時、左下が9時となっています。相当温位の高い領域、強い風の領域が東へ移動しています。つまり前線はちょうど本州の南岸を通るようで、広い範囲で雨、特に前線に近い四国、東海、関東の太平洋側は、特に多い降水量が予想されています。日付が変わってから未明頃にかけては、特に静岡辺り、注意が必要になってきそうです。