フィリピン海のコールドサージについて聞きました!
聞いた!というのは、JAMSTECの茂木美紀さんにお話を聞いた、ということです。6月のはじめに、茂木耕作&美紀夫妻のお宅にお邪魔しまして、竜巻発生装置をぐるぐる回してきたのですが。その時に、美紀さんの今一番新しい研究内容を取材させてもらったんですね~。ラジオっぽいTV!には動画だけ出したのですが、もう少しまとめるのに、ちょっとお時間いただこう、と思ってこんなに時間が経ってしまいました。今日は、文章と合わせて、取材の内容をぶつ切りにまとめたいと思います。
<北風コールドサージが赤道を超越する!?>
そもそも、美紀さんに初めて研究内容をお伺いしたのは、1年半ぐらい前のことで、その時お話していただいたのが、「コールドサージが赤道を越えて、南半球のジャワ島の降水に影響を及ぼす!というお話です。下の図で簡単に書きましたが、ジャワ島で日中から夕方にかけて、山沿いで雨が降り、夜間に山地の冷気がダラーっと吹き下りてくる。そこに、コールドサージがあると、特に早朝の山麓の降水量が多くなっちゃうということです。これを聞いた時には、驚きました!シベリアから吹き出した乾燥・寒冷な季節風は、日本への影響止まりで、その先を考えたことなかったのですが、その先に、まさか押し出しの1点があったとは。当たり前ですが…地球の大気って、つながってるんですね(・∀・)
<今!注目しているのは、フィリピン海コールドサージ!>
コールドサージはコールドサージでも、今注目しているのは、フィリピン海コールドサージ。図で言えば、前回示した海域よりも、東側の海域を吹き渡る季節風。ここから東周りでフィリピン海に吹き込むコールドサージが、何をやらかしているのか?気になる!ということで、注目してるんだそうです。実際、フィリピンでは、暖候期は南西モンスーンでフィリピンの西側で雨量が多くなり、寒候期になると東側で雨量が多くなるというのです。これは、コールドサージと何らかの相関がありそう!そんな気がしますね。
見られない方は、You tubeでもどうぞ。
上の図は、動画の中で見ていた図と、その日赤外画像ではどのような雲ができていたのか?2013年1月18日3時~21日21時の赤外画像を見てみました。シベリアから寒気が吹き出し、日本付近に筋状の雲を作り、それを追って行くと、確かにタイムラグがあって南の海上にも低い対流性の雲が現れ、それが次第にフィリピンの東に押し寄せて行くように見えます。コイツかっ!コイツがフィリピン海コールドサージか!(・∀・)
?ただ、何しろ海上ばっかりを通ってくる風なので、観測点が少なく、詳細がつかめない。そこで、赤丸で囲った海域でぐりぐり観測してみた!ということです。
<海で観測~(・∀・)って…そんな楽なもんじゃないわいっ!>
2012年12月、フィリピン海を目指して南下して、観測プロジェクト始動!白鳳丸という船で、観測に乗り出すわけなのですが。船での観測というのは、くっそ大変です。?別に私がえばって言うことではありませんが~。私も去年、長崎丸に乗って、「観測」というものを経験させてもらったので、だいぶ分かるのです。私なんて、ちょっとお手伝い程度なのに、大変!と言ってるのですから。まず、3時間間隔の観測がどんなに大変か!単純に3時間に1回ゾンデ上げたり、海面水温測ったりすればいいんでしょ~、では済まされません。ほぼ休みなく観測するようなもんです。
ただでさえ、目まぐるしい観測スケジュールだというのに、荒天だったらどうでしょう…。動画の中でも予想図を見てましたが、遠くて分かりにくいかも知れませんので、GSMで見てみます。
2012年12月24日9時~25日9時(GSM地上気圧・流線・波高) と、 ヤバそうな海域に入る前の写真。
高気圧がボワ―っと張り出し、南海上の等圧線の間隔の狭さが、オエーっ!です。赤いベクトルは、平均風速10m/s以上の領域ですが、20m/s以上の所もあります。波高は、黄色が4m以上の領域、それより高いオレンジの領域が5m以上です。南海上を南下すればするほど、ヒドイことになりそうな様子が見てとれます。しかも、台風まで発生して、この海域は大荒れということです。そして、白鳳丸の船長の清野さんが撮ったという、激しいお写真がコチラです。これで、平均風速24m/s、瞬間風速35m/s、の世界です。波高は3mぐらいでしょうか。見るだけで鳥肌がたってしまいますが、本格的にヤバイ海域に入る前で、このありさまです。(・・;)。これで、観測は簡単じゃねーよ!ということがお分かりいただけたかと思います。
船内のモニターにリアルタイムタイムに映し出されるゾンデの観測データです。気象予報士試験でもお馴染みですね!鉛直方向の大気の状況を知るための状態曲線です。取っている値は違いますが、下層が湿っていて上空が乾いている様子が分かります。どの高度まで湿っているか?それで、気団変質がどれぐらいの厚さまで成長しているのかが分かります。
<インパクトのあるヤツ!実験とは>
今回、最大の難関です(私にとって)。インパクト実験ってなんぞや!そもそも、数値予報モデルって、観測命!です。初期値が現実の大気の状態に近い表現であれば、先の計算も基本的には精度よく計算できるものです。観測が多い所の初期状態の表現はすばらしく、そこから遠い方が表現が悪くなっていきます。また、風上の表現が良いと、その風下の表現も良くなりますが、風上に観測点が無いと、表現があまり良くない状況が風下にも悪影響を及ぼします。その順序で考えて見れば、フィリピンあたりは、そもそも観測点が少ないから表現があまく、じゃあその風上は?と言えば、思いっきり海上でこれまた観測点が少なく、表現の甘さの悪影響を受ける地域であるわけです。ここに、風上にあたる海域で行った美紀さんたちの観測がポツっと入ると(データ同化する)、大気の状況(解析)はどうなるのか?モデルに観測を入れた場合と、入れなかった場合の違いを比較して、その観測のインパクトはいかほどなのか!?それを調べるんです。
ここで、データ同化のシステムの詳しいお話は…ちょっと難しいので、端折ります(^_^;)アンサンブルで計算した場合、メンバ-間のばらつきを見ることがありますね。週間予報でも、一か月予報でも。そのバラつき(スプレッド)の大小でもって、精度の「高い」「低い」の指標とするわけです。観測がある場合と無い場合とで、スプレッドの大小がどの地域にどれだけ出てくるのか。いよいよ、先ほどの白鳳丸で観測した観測データをALERA2で同化して、どんなインパクトがあったかを見て行きます。フィリピン海のコールドサージの表現が良くなっていればいいな~、他にもどういう所に影響が出てくるのかな~、など、どこの精度が上がったのかを調べるとともに、その影響がなぜそこに伝わったのか?そこまで追求することで、現象の仕組みを深く知ることができるのではないか!ということで、美紀さんは今、まさにここの研究段階に居るわけです。最先端ですね!
<ミキチャンの最先端へ>
インパクト実験の結果。全日にち、全層を平均したもの。
実験の結果として、出てきたのは、私の人生では出会ったことのない物差しでした…。この図は、アンサンブルのスプレッドをデータ同化しない場合とした場合とで比較して、どれだけスプレッドが小さくなったか、ということを%で表した、いわば「改善率」ということです。赤い色の方が改善率が大きいところです…。って、え!!大海原のあの地点の観測を同化させただけで、こんなにあちこち改善されちゃってるわけ??というこなんです。スゴイっす!
そもそも、観測によって精度がよくなることが、風のウワサ的に、風に乗って広がるということが驚きでした。そうか、風上側の精度が風下側に影響するというのは、そういうことか。本題のフィリピン海のあたりは間違いなく改善率アップしてますから、この観測が重要だというのは、間違い無さそうです。さらに、動画の中でも言ってましたが、この時は、大気の中でも伝える力が強い、現象としてインパクトの大きいヤツらがたくさん存在したというのです。例えば、熱帯低気圧だったり、例えばMJOの対流活動だったり。それらが、思いもよらぬ地域にまで、改善率アップの影響を伝えたのだろうか??美紀さんの居るポイントは、今まさにココなんです。
<遠い海上のほうに思いを馳せるのも、いいな~>
私が実際にお話を聞いたのは6月の初めですが、今改めて動画を見直してみて、思わず笑ってしまうぐらい、美紀さんの研究はオモシロイものでした。冬型の気圧配置の時、今後はちょっと、その先の海まで追いかけてみようかな(^_^)、そんな風に思いました。