阿蘇の集中豪雨
特に阿蘇乙姫で、1時間100ミリ前後の雨が4時間も続き大きな被害が出た7月12日未明~朝にかけて、ちょっと解析してみましょう。
左が11日21時、右が12日9時の地上天気図です。前線は黄海から対馬海峡を通って日本海にのびてますが、21時から翌9時の間に少しだけ前線が南下しているようです。今回の集中豪雨は、前線のすぐ近くで発生したものではないようですね。
前線の南側や、前線の波動の前面、北にある低気圧の南側まで、広範囲に渡って相当温位345K以上の高相当温位の暖湿気が分布しています。ただ、これはもはや大雨の直接の原因となっている暖湿気とは言えません。925hPa(800m付近)を見て下さい。さらに高相当温位の空気が分布しています。
つまり、850hPaの暖湿気の分布は、下層の湿りが上昇してきたものが表れていると考えられるため、直接の大雨の原因とは言えないということです。850hPaより下層には、高気圧の縁辺を回って東シナ海付近に溜まりにたまった大量の水蒸気があり、前線の南側の上昇流によって850hPaの高度あたりの水蒸気量も多くなったと考えられます。
九州北部に入ってくる700hPa付近の風は、21時~翌9時にかけて西南西~西風に変わるみたいです。700hPaの風は、雲を流す主な風です。
では、九州北部にどんな風に雨が降ったのか、レーダーエコー合成図を見てみます。
0時~1時にかけて、発達した対流雲列が九州北部にかかり、まとまりながら東進し抜けて行くように見えます。1時の時点で、九州の西の海上には、目立った対流雲は見られませんので。しかし、1時~2時にかけて、この海域には発達した対流雲が散在し始めます。さらに詳しく見ると、対流雲列の後方に(小さい赤丸)また発達した対流雲が出来始めています。その後、北側には新たな対流雲列が700hPa付近の西南西風に沿う形で発達し、東南東に進んできます。
では、阿蘇で雨量が多くなったのはなぜか、見てみます。
やはり地形の効果はかなりありそうです。阿蘇一帯の山の高度は1500m前後です。
阿蘇の山々の西側は急な斜面になっています。高度1500m前後ということは、850hPaの大気を見ても意味がありません。925hPaの大気の流れを見てみましょう。925hPa付近は強い西~南西風で、354K以上の高相当温位の空気が阿蘇に吹き込み続けている状態です。(左から、0時、3時、6時)その非常に湿った空気が、地形に因る強制上昇で対流雲がさらに発達したと考えられます。
今回の阿蘇付近の雨は、一つの対流雲列が過ぎて終了ではありませんでした。前線の南側で複数のシアラインができ、そこへ大気下層の非常に湿った空気の補給が続く構造ができて、対流雲列が次々とできたというのが一つの原因。そして、大気下層の暖湿気は強い西寄りの風で阿蘇に吹き込み、そもそも発達している対流雲列が地形性の強制上昇によってさらに発達し、阿蘇に流れ込んだというのも、一つの原因。これら複数の原因が重なって、この地域の集中豪雨となったということのようです。
気象予報士試験では、地形性の強制上昇はもちろん、大雨の原因として「大気下層の暖湿気流入」について問われることが多いですね。特に、最近では高度500mぐらいまでのごく下層の湿った空気の動向に、大雨の原因があると繰り返し言われていますので、このあたり要注意です。前にも言いましたが、「湿舌」は大雨の原因ではありません。
※湿舌…高度3000m付近に現れる水蒸気量の多い気流域。帯状(舌状)にのびており、700hPaで明瞭に認められる。
2012年7月23日
カテゴリー:天気の話題